専門家のコケン

そもそも精神科の外来はきわめて患者の数が多く、医者一人で半日に二〇人以上を診察すること
は当たり前です。三時間で二〇人以上診るには、事実上、 一人当たり一〇分以内で診療を切り上げ
なければならないという計算になります。そこでは、なんとか療法などといういかめしい心理療法
はできるはずもありません。今や多くの人が心理療法を求めているにもかかわらず、その時間がな
いということは大変な問題です。このようなふつうの精神科外来にあっては、患者さんから相談を受け、問題点を明らかにし、その克服の仕方を一緒に考えるということが、面接の主たる役目となります。いわば簡易精神療法であり、ときにはカウンセリングという言葉でいってもいい内容です。そしてまた、医者主導型の助言もきわめて多く、かつそれが一般的です。不安神経症にしてもうつ病にしても、さまざまなケースを診ているので、彼らがどのような態度で暮らしたらいいのか、どう問題に対処したらいいのかという点で、医者のほうが当然、専門知識を持っていると考えてよいでしょう。その知識を患者さんに分けてあげるのが、医者=治療者の助言であり、教育ということになるのです。

 

 

従来、このような側面はきわめて軽視されていました。特殊な、なんとか療法という名前がつかなければ、専門家のコケンに関わるような風潮があったのです。しかし昨今では、医者が患者に心理教育的なアプローチをすることは広く認められ、かつ脚光すら浴びている治療法なのです。これはなにも特殊なことでなく、昔から行なわれてきた心理教育というものを今まさに堂々と取り上げ、これが重要だという認知を与えたにすぎません。今まで精神分析なり、分析療法を施していると称していても、実際、その現状を見ると、医者から患者へのアドバイスで終始していることが多いものです。

 

 

このような現実を考えると、心理教育的アプローチというものの存在を現実的に見すえて、ょり意識的に洗練させ、より効率のいいアプローチを患者にしてあげることが必要なのです。心理教育的アプローチとは、患者に病気や治療について、はっきり説明することであり、医者と患者さんが共同して治そうとするものであり、患者は「治される者」という受身の立場でなく、自ら治して行こうとする立場に立つのです。