中途半端な知識は邪魔になる

心理教育的アプローチは、とくに日本のような東洋の国には重要です。アメリカでは、患者でも、自分の病名、その病気の経過、症状、治療法、薬の名前といったものを知っています。彼らには「知る権利」があるからで、それを知らせない医者は法律的な罰則を受けることになっています。しかし、日本にあっては、患者側の「知る権利」などというものはほとんど聞いたことがなく、最近になってガンの告知の問題でやっと取り上げられている程度です。精神科にあっては、「知る権利」が話題になることはもっと少ないことです。患者も、自分の病気を知ることによって責任を持ち、医者にのみまかせるのではなく、自分でも治そうという気持ちを持つためには、「知る権利」を大事にしなければならない時代に入ってきていると思います。その意味でも、心理教育的アプローチというものは、日本でもとくに注目されなければならないのです。私はかつて、精神科の病気で一番重いといわれる分裂病について、診断を医者が患者に伝えるかどうか調査したことがあります。日本の各大学の諸先生にアンケートをとったのです。

 

 

分裂病について、患者に知らせるとした医者は約二〇%でした。しかし、アメリカやカナダでは八〇%の医者が診断名を伝えており、さらに薬の名や、症状、経過を伝えていることがわかりました。日本では診断名はもちろん、症状や経過、薬の名前に到ってはまったく教えないのがふつうです。患者さんのほうでも、このようなことを医者に聞くのは失礼だと思っている人が多いようです。実際、で」の薬の名前は何ですか」と聞いて、医者に叱られているのを見受けることがあります。しかし、これは明らかに医者の傲慢であり、知識を医者だけが独占することは時代錯誤だといわざるをえないでしょう。

 

 

しかし、患者のほうの中途半端な知識が、かえって治療を妨げることもあります。勝手に、薬を替えてくれとか、私には精神分析がよいからそうしてくれといったことを唐突にいう人もいます。本当にわかっていうのなら医者も対応じやすいのですが、かなり歪んで理解しており、医者の説明を無視することもあります。このあたりは、ケース・バイ・ケースで考えるしかないのですが、原則的には知っておくほうがよいでしょう。また、診断について強くこだわる人がいますが、精神病の場合はともかく、うつ病や不安障害、人格障害といった場合には診断そのものより、その人の問題点はなにかが一番重要なのであり、あまり診断にこだわるのも考えものです。